先日、別の部署の人からM&Aの売り案件の打診を受けた。買い手を見つけて欲しいというのである。
早速ミーティングを持ち、その概要について教えてもらうことになった。
我々は会社名を伏せて、案件名をコード名で呼ぶことが多い。今回は資料の表題にはコードネーム「アイスクリーム」(ここでは仮名)となっていた。
おもむろに持ち込んできた担当者が、実はこういう会社なんだけどと、どの会社か分かるページを開いて拙者に見せた。
まず、拙者の目に飛び込んできたのは、会社名より、社長名であった。驚いた。
「あっ、この会社は・・・。私知っていますよ。私が上場アドバイザーをやっていて断念した銘柄ですから・・・。」
「ははん、こういうことになった訳か・・・。」
と様々な思いがよぎった。
ある投資ファンドが株のほとんどを持っていて、exitを模索していた案件だった。しかし、この金融危機やら相場の崩壊、買い手企業の財布の紐が締まる中で、それを見つけるのは困難な状況だった。
「それなら話が早い!まさか、そんな関係浅からぬ人がいたとは思わなかったよ!」
とその担当者は急に頬が緩んだ。
「こんな銘柄を担当しているんですか(笑)。きっついすね、はっきり言って。」と拙者。
「社長からも、君頼んだよと言われてはり付けられちゃってさ。社長に会うたびに、あれどうなったって言われるんだよね。」「しかもさ、そこのファンドの保有銘柄、他のもよろしくって言われているんだ。」と担当者。
「まるで、特命係長ですね(笑)。」
見ると残りの銘柄も売れ残ってシコッた案件ばかりである。ほうっておいたら、死んじゃうかもしれない。触るのやめとこ、と思ったのは言うまでもない。
しかし、冗談はそこそこに拙者は無情にもこう答える。
「これをexitさせるのは、はっきり言って無理だと思います。潰れたりはしないでしょうが、買い手にとっては正直決定的な魅力に欠けますから。。。そもそも(成長)ストーリ-が描けないでしょ。etc」
「詳しいね、君」と担当者。
「当たり前です。担当者として徹底的に調べて、内情含めて知っていますから。」
「たとえば、事業部ごとにバラして売却は出来ませんか?」と拙者。
「一体での売却を考えている。」と担当者。
「バラせば個別に買い手は見つかるでしょうが、一体だと事業領域が事業部ごとに異なるので、買った側が自分の事業と関係ないものまで抱え込むことになるのでシナジーが出ない可能性が高いですから、買い手にとっても買うためのロジックを構築しにくいと思います。オーナー系企業のオーナに刺しに行って運良く刺されば、といった感じではないでしょうか?買い手候補になりそうな同業とか関連のプレーヤーを思いつく限り考えてみても、まあ期待薄ですよね。」
とにかく、担当者からはこの会社に声をかけてみて欲しいというので、拙者はその会社のトップマネジメントに打診をしてみた。まあ、ほとんどダメ元だったわけだが、やはり予想通りの結果に終わった。
仕方なく、その担当者には「やっぱり、ダメでしたね・・・。」と伝える。
それからしばらくして、外交でたまたまあるホテルのレストランでランチを取ったときのこと。会計を済ませると、割引券を何枚かくれた。その中に、「アイスクリームサービス券」なるものが入っていた。
それを見た拙者は、ふと先日のコードネーム”アイスクリーム”の例の担当者を思い出す。
オフィスに戻ると、アシスタントにその担当者にこれを持って行ってと渡す。付箋には「Good Luck」と書き添えて。
「アイスクリームサービス券ですか?」と怪訝な彼女。
「うん、彼は”アイスクリーム”が大好きだからさ(笑)。」
しばらくしたら、例の担当者から電話がかかってきた。大笑いである。
「ひさびさに、こういうギャグをかまされたよ。」
しばらくして、彼の部署で異動があった。何となく気になって、彼の異動先をイントラで確認すると・・・。
「あっ!」と思って、目に飛び込んできたのが、肩書きである。
「部門付 特命担当」
とカッコ書きになっていたのである。
フツー、名簿にカッコ書きで入れるかよ、そんなの(笑)。どう見たって怪しいじゃねえか(笑)。
笑っちゃいけないが、拙者はマジで笑ってしまった。だって、冗談のつもりで「特命係長みたいですね」って言ったのが本当になっていたからだ。
笑うところではないことは十分分かっていたが、しばらくおかしくて、仕事にならなかった。
これで彼は名実ともに例の社長特命のシコッた銘柄を全部押し付けられてしまったのだろう(写真はイメージ)。サラリーマンとは実に残酷なものである。
以後、拙者の部下も彼のことを隠語で「特命係長」とか、「タダノさん」とかコードネームで呼ぶようになったのは言うまでもない。
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